代表理事挨拶

下川一哉代表からのメッセージ

「豊かな工芸社会の実現のために」

 アベノミクスによって、日本経済は上向きになり、我々の暮らしが再び豊かになると多くの人々が期待しています。本当にそうでしょうか? 大手企業が最高益を出す一方で、日本各地の地場産業や伝統工芸に目を向けると、出荷額も事業所数も雇用者数も一向に上向きません。衰退から抜け出したとは、決して言えません。予断を許さない状況に、何ら変化はないのです。

 自動車を代表する工業分野で、日本経済の復活は見られるものの、日本人の豊かな暮らしを支えてきた工芸分野の凋落には歯止めがかかっていません。先人が守り、永らく受け継いできた日本らしい素材や手技も絶滅に瀕しています。このままでは、日本の産業界は工業偏重に陥ってしまいます。工芸社会と工業社会のアンバランスは、ますます傾きを大きくしてしまうでしょう。

 日本のモノづくりを健全にし、我々の暮らしを心豊かにするには、工芸分野の産業の復興が欠かせません。NPOメイド・イン・ジャパン・プロジェクト(MIJP)は、こうした想いを胸に活動を続けてきました。工芸分野の生産者、デザイナーをはじめとしたクリエイター、生産されたモノを市場に届ける流通事業者—。こうしたつくり手側のプロフェッショナルたちが連携を深め、新たなモノづくりと市場開拓のプラットフォームとしてうまく機能するために、MIJPは本部の各部会の活動を一層活発にし、各支部との連携を強めることで、会員同士の仲間づくりと学びを強くサポートしていきます。こうした運動の広がりを通して、会員数の増加と支部の増設を実現します。

 工芸社会の後退は、つくり手側の自助努力だけで押し返すことのできる問題ではありません。我々、日々の生活者であるつかい手が、一見して簡便で快適なモノを選択した結果でもあります。便利で楽な工業製品は次々に店頭に並び、我々はこれらをつかい捨てにしてきました。日本各地の職人たちが丹誠を込めてつくった暮らしの道具は出番を失い、売り場からも姿を消していきました。その結果、四季の移ろいや年中行事を大事にし、家族や地域を大切にする伝統的な暮らしも薄れてきました。これを我々は、「現代の便利な暮らし」と理解したのです。本当でしょうか。真に豊かな暮らしがこの先もここにあるのでしょうか。

 MIJPは、そうは思いません。我々の暮らしは便利で快適になりましたが、多様性を失い、没個性的になっていませんか。道具を使いこなし、成長していく喜びを感じているでしょうか。つくり手に感謝し、モノを大事につかっているでしょうか。すべてに「はい」と答えられる人は多くはないでしょう。いま、暮らしが薄っぺらになってしまったことに気付く人々が増えています。

 MIJPは、つくり手とつかい手をつなぎ、つかい手の暮らしを真に豊かに変えていきたいと考えて活動しています。つくり手とつかい手が交流するワークショップは、そうした活動の1つです。つかい手が丁寧な暮らしをよみがえらせることで、つくり手も自信と誇りを取り戻すでしょう。モノづくりと暮らしが強くつながることで、豊かな工芸社会が再び実現すると信じています。

 すべては、MIJPに集う皆さんの活動にかかっています。皆さんの自主的な活動が、より活発化し、より実践的なものになるよう、本部と支部は全力を挙げてサポートしていきます。どうぞ、MIJPで志を同じくする仲間を見付け、未来につながる実践的な活動を始めてください。

2014年7月25日
代表理事 下川一哉